By James Gong
Updated on October 24, 2019, 9:15 AM

今年の注目株!中国の新デジタル通貨が現金に取って代わるか?


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これは現代の皮肉のひとつとして耳目を集めるかもしれない。「金融の分散化」という明確なゴールを持って誕生した暗号資産が多くの支持を得たあまり、遂に中国の中央銀行も(分散型ではないとのことだが)独自の暗号トークンを開発することにしたという。

 

中国が目指すところはビットコイン(BTC)のような「ストアオブバリュー」でもイーサリアム(ETH)のような「デジタルオイル」でもなく、むしろもっと野心的かもしれない。この暗号資産が現金に取って代わることを目指しているのだ。

 

しかし具体的に、どうやってそれを達成するのか? 中国の計画について深堀りしていく前に、まず予備知識として別の事例をご紹介しよう。インドは数年前に突如数種類の紙幣を廃止したが、その際何が起きたかをおさらいしておきたい。

 

インドによる紙幣の廃止

 

2016年11月8日、インドのナレンドラ・モディ首相はテレビで放映された演説の中で、500ルピーと1000ルピー紙幣の運用を廃止し、新たな紙幣を導入すると宣言した。インド国民はその後50日の間にこれらの紙幣を交換せねばならず、期限を過ぎれば旧紙幣は紙くずとなった。

 

インド政府の説明によれば、これはテロリストの資金調達とマネーロンダリングへの対策でもあり、国内政治の腐敗や薬物取引、密輸等の問題を改善するためでもあった。(インドでは一般的に、高額紙幣を銀行に預けずに自宅に保管することを好む人が多い。これらの預金の一部は合法な収入だが、グレーな金や賄賂によって得た金がこうした形で秘匿されていることもある)

 

モディ首相の発表に先駆けて、インド当局は国民に対して正確な収入の申告を行うよう呼びかけた。さらに、滞納について白状した上で45%の課徴金を支払った者に対しては罪を問わないとする「脱税者への恩赦」法まで作ってしまった。しかし、こうしたインド政府の訴えはほぼ見向きもされなかった。そこから数年、データが示すところによれば、モディ首相の唐突な紙幣廃止による腐敗への対抗は概ね失敗に終わったといえそうだ

 

中国の暗号資産は「現金の代わり」となるか?

 

さて、中国はインドほど性急にではないにしろ、やはり紙幣を撤廃したいと考えているようだ。中国人民銀行による独自の暗号通貨(DCEP)開発は間も無く完了すると見られている。同銀行の声明によれば、計画中のデジタル通貨電子決済(DCEP / Digital Currency Electronic Payment)システムは二層構造になっており、「紙幣からDCEPへ」の交換サービスは興行銀行で提供されるとのこと。

 

重要な点は、顧客確認のKYCプロセスが必要になるのは「多額」の金を換金する場合だけだということだ。少額の現金をデジタル通貨に換金する場合には個人情報を登録する必要はない。

 

中国人民銀行のデジタル通貨研究所で責任者を務める穆長春(ムー・チャンチュン)氏は、この新通貨の利用にあたりユーザーは商業銀行を利用する必要がないとも述べている。アプリをダウンロードしてアカウント登録を行い、ウォレットを通して通貨を受け取れば良いだけだという。

「デジタル通貨と交換したければ、利用している銀行のキャッシュカードを使うこともできます」(ムー氏)

 

「マネーロンダリング対策という観点から、ウォレットの利用には様々なレベルで上限を設ける予定です。例えば、ユーザーが携帯電話番号を使ってウォレットを登録した場合、これは最低レベルでのウォレット利用となるので、日常的な少額の支払いに対してのみ使用が可能です。しかし、身分証明書をアップロードしたり、あるいは銀行のキャッシュカードを追加で紐づければウォレットをより高いレベルにアップグレードできます。銀行の窓口でデジタルウォレットを登録すれば、無制限でウォレットを利用できるという特権も検討中です」

 

多くの人は、なぜここまで中国の中央銀行がDCEPのリリースに躍起になっているのか不思議に思うのではないだろうか。DCEPが人民元の国際化を加速するという見方もあるが、これにはあまり頷けない。少なくとも現行の法定通貨とデジタル通貨間の交換に制限があるうちは、人民元の国際化には多くの困難が伴うと考えられる。一般的に、政権に取引環境が支配されている通貨をわざわざ選ぶ機関投資家はいないからだ。

 

ムー氏はDCEPがオフライン環境でも使用可能であることを強調し、公的または個人的な債務の支払いにも合法的に利用可能と判断している。ではこの通貨は実際に現金に取って代わるのか? 少なくとも、中国の当局関係者はそう考えているようだ。9月24日に中国人民銀行行長の易綱(イー・ガン)氏は、「目標は [...] 現金の一部を置き換えることだ」と記者会見で述べている

 

インドのモディ首相による紙幣廃止が狙ったものと同様の課題に、今回のDCEPがタックルしようとしているのは間違いない。中央銀行のデジタル通貨がメインストリームに流れ始めれば、違法あるいはアンダーグラウンドのキャッシュ・ディーラーは一掃されるかもしれない。インドのような紙幣廃止策を実行すれば、犯罪や汚職によって得られた秘蔵の札束を一夜にして消し去ることができるだろう。

 

もちろん、税金のこともある。デジタル資産の動きは政府に筒抜けなので、脱税は極めて難しくなり、帳簿外の現金収入も税金のシステムに完全に取り込まれるだろう。さらに、現時点では難しい特定人物の現金口座凍結も、将来的には簡単にできるようになるだろう。

 

同時に政府は高額のデジタル通貨取引に上限を設定することで、当事者がその金をどのように得たのかきちんと説明できない場合には没収、凍結、あるいは無効にすることができるかもしれない。

 

インドでは「戦略成功」と言えるのか?

 

高額紙幣を廃止したインドの当初の目的は脱税、汚職、レントシーキング、地下経済などの諸問題に取り組むためだった。しかし、昨年ニューヨークタイムスが報じたところによると、インド準備銀行が発表したデータからは、廃止された旧紙幣の価値の99%が後に金融システムに還流したと見られることがわかった。「データを見る限り、犯罪者も貯め込んでいる者らもその他大勢とほぼ同じように、旧紙幣を新紙幣に換える手段を見つけたようだ」

 

言い換えれば、捨てられた旧紙幣のほぼ全てが新紙幣と換金されたことになる。これはモディ政権の公約にあった経済的そして金融的なガバナンスに期待された効果とはほど遠い。むしろ、違法に入手した旧紙幣を公的に認められた新紙幣に換金できた犯罪者にとっては、マネーロンダリングのスキームとして機能してしまった可能性もある。

 

このインドによる試みの結果を見れば、紙幣廃止は明らかな失敗だったといえるだろう。表向きには効果があるとされた腐敗対策は成果に結びつかなかった。

 

しかし、インドの金融相、アルン・ジェートリー氏によれば、紙幣廃止は犯罪資金の差し押さえを狙ったものではなかったという。むしろ、地下経済を表の経済に引き戻す狙いがあった。つまり、「腐敗防止」のレッテルが貼られた紙幣廃止は本来、金融のコントロールと課税を強化するための施策だった。

 

紙幣廃止が「腐敗防止」を謳い、さらにそれが一部の富裕層にひと騒動を引き起こしたことで、一般市民にはむしろ受け入れられた。しかし、富裕層の利益にはほぼ影響を及ぼさなかったばかりか、一部には利益を上げた者もいた。

 

インドの失敗の主因は、当時のインド社会が現金中心の性質を持っていたことにあるだろう。電子決済を行なっていた人はわずかで、問題となった移行期間には技術的な課題も多数発生した。

 

今考えてみれば、こういった急進的な試みを成功させるには、そもそも極めてキャッシュレスな社会が必要だったのだ。その点で言えば、中国はまごうことなく世界で最もeペイメント文化が普及している国であり、中国がこれにトライする価値はあるだろう。

 

しかし同時に、中国人民銀行はインドの紙幣廃止の失敗から学び、あまりに極端な施策や技術的な課題を回避できるようにすべきだ。とはいえ、スマートフォンが普及し、eペイメントシステムが既に根付いていることを考えれば、中国が直面する課題はモディ政権の直面したものよりはるかに乗り越え易いものとなろう。

 

そして政府側の視点でみた場合、このシステムにはもうひとつ優位性がある。法定紙幣は中央銀行の負債であるため、DCEPを使えばこうした負債の一部を解消できるのだ。同銀行が直面する厳しいインフレを考えれば、流通している現金のたとえ一部であってもデジタル通貨に置き換えられるのは理想的だ。痛い目を見るのは違法に得た金をデジタル通貨へ換金できない者だけだと思えば、DCEP反対派が導入に異を唱えるのには苦労が伴いそうだ。

 

公表済みのDCEPの技術的詳細から判断する限り、今のところ中国のDCEPがBTCはもちろん、その他の暗号資産のブロックチェーン技術と関わりを持つことはなさそうだ。とはいえ、中央銀行がこの計画のさらなる詳細を明らかにし、最終的に現金を廃止する段階になれば、貯め込んだ金を守ろうと早々に暗号資産を買いに走る者も現れるだろう。あるいは、暗号資産を介して人民元を米ドルやその他の法定通貨に換金する者も出てくるかもしれない。そういった意味で、長期的に暗号資産に及ぼす影響は小さいにしても、DCEPによる現金の置き換えは短期では暗号資産への追い風となりそうだ。


(英語版:https://www.longhash.com/news/chinas-new-digital-currency-wants-to-replace-cash-it-might-work


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