By Emily Parker
Updated on September 13, 2019, 10:30 AM

ハッキング事件から得た教訓:コインチェック社長 勝屋 敏彦 独占インタビュー


2018年、日本の暗号通貨取引所Coincheck(コインチェック)は、史上最大のハッキング被害を受けた。この事件は、日本の監督官庁をはげしく動揺させ、かつては「ビットコイン国の首都」といわれたこの国で、規制強化の嵐が吹き荒れた。その後ながらく日本では、新しい「暗号通貨交換業者」の登録も、新しい「コイン」の上場もなかった。


そして、2019年、コインチェックのハッキング事件の翌年、日本でようやく新しい暗号通貨交換業者の登録が実現。このとき登録となったのが、当のハッキング被害者のコインチェックだ。コインチェックは、今なお日本最大規模を誇る取引所の一つとして知られている。

 

今回のLongHashによる独占インタビューでは、コインチェックの代表取締役 勝屋敏彦氏に、ハッキング事件の社会的影響と、その後のコインチェックのあざやかな復活劇について語ってもらった。


勝屋氏(以下、敬称略):「5億ドル以上の盗難に遭ったコインチェックは、マウントゴックス事件以来最大のハッキングだった。犯人の正体はいまだにわかっておらず、人々はその金額に驚愕した。」


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「昨年は、ハッキング事件がもとで、各種規制が大幅に強化された一年だった。おかげで日本のフィンテック産業の発展には遅れが生じてしまったが、それは止む得ないことだったと思う。」

 

日本の暗号通貨業界は、2年前とは大きく変わった。コインチェックの起こした事件が大きく影響した。日本はかつて暗号通貨に好意的な国だった。2017年、日本政府はビットコインが合法的な支払い方法であることを認め、16の暗号通貨取引所にライセンスを与えた。


コインチェックがハッキングされたとき、同社はまだライセンスを持っていなかった。「みなし業者」として営業していたのだ。勝屋氏は、コインチェックが匿名通貨を上場させていたこともその一因だという。匿名通貨については、金融庁はかねて懸念を示していた。


その後、暗号通貨ブームが起こった。「2017年に巨額の利益を上げたコインチェックは、翌2018年の1月26日にハッキングを受けた。コインチェックの経営陣は、2017年終わりハッキング対策に彼らとしては最善を尽くしていたが、ブームが余りに突然起こったので、ネム(NEM)用のコールドウォレットの用意が間に合わなかった」と勝屋氏は言う(ネムは、コインチェックから盗まれた暗号通貨である)。「ネムの流動性は余り高くなかったので、コインチェックは日本円で顧客にほぼ全額を返金した。」

         

このハッキング事件は、暗号通貨経済圏の脆弱性を浮き彫りにした。本来、暗号通貨は分散化されている。たとえば、ビットコインのブロックチェーンの最大の利点の1つは、帳簿が世界中に分散化されていることだ。これは、ハッキングを行おうにもその攻撃対象を「しぼれない」ことを意味する。しかし、このことは、暗号通貨取引所には、必ずしも当てはまらない。


勝屋:「暗号通貨取引所は、ある種銀行のように機能している。取引所は、顧客情報、顧客の法定通貨、顧客の暗号通貨など、あらゆるモノをお預かりしている。だから私たちはこれらを非常に慎重に保護しなければならない。」


ハッキング事件後、人々は、取引所は法定通貨だけでなく暗号資産を預かっているという事実を認識した。取引所はそれらをもっと用心深く取り扱わなければならない。金融庁が内部統制の強化を命じなければならなかったのは当然だ。」

 

2018年4月、コインチェックは日米などにオンライン証券会社を展開するマネックスグループに買収された。勝屋氏はハッキング当時、マネックスグループのCOOで、海外事業を担当していた。金融庁はハッキング事件後、コインチェックに業務改善命令を出し、マネックスに取引所のガバナンスを改善するよう指示した。


そして4月、勝屋氏は、コインチェックの社長として経営改革を始めた(マネックス買収後、コインチェックはCEOを置かなかった)。コインチェックは、自らが信用に足る存在であることを、金融庁と一般の人々に証明しなければならなかった。


勝屋:「私たちは、サイバーセキュリティー、内部統制、マネーロンダリングについて、改善能力があることを金融庁に示そうと努めた。」


金融庁による監視強化は、コインチェックに対してだけではなかった。日本の取引所はすべて、厳しい規制と監視の対象となった。「ハッキング事件以前は、暗号通貨取引所の経済活動は、特定の法律によって禁止されていなければ許されるところがあった」と勝屋氏は言う。「昨年規制の枠組みが変わり、暗号通貨取引所は、自主規制ルールを遵守していることを確認するよう義務付けられた。」

自主規制ルールは現在、暗号通貨取引所の自主規制団体である『一般社団法人日本仮想通貨交換業協会』(JVCEA)が策定している。


新たなコインの上場にはこのJVCEAの承認を得る必要があるが、発足以来18カ月以上たっても、いまだに承認されたコインはない。


「業務改善命令の対象となっている暗号取引所では、新しいコインを上場できない」と勝屋氏は説明する。「昨年6月、ほとんどの暗号通貨取引所が業務改善命令を受けた。金融庁は、コインの安全性や健全性を、もっと慎重に調べる必要があることを認識したと思う。金融庁は、JVCEAにコインの妥当性を調査してもらっている。JVCEAは新規に上場するコインを審査するためのチェックリストを作成した。」


コインチェックは毎月、業務改善計画の進捗報告書を金融庁に提出しなければならなかった。そして最終的には、十分な改善がなされたことを金融庁に納得させることができた。「最終的に金融庁は、もう進捗報告書を提出する必要はないと言ってくれ、2019年1月、私たちを正式登録してくれた。」


良くも悪くも、ハッキング事件後、日本での暗号通貨取引所の運営は困難となった。セキュリティ、マネーロンダリング対策やテロ資金対策など、新たな要件が加わり、コンプライアンスのためのコストが増加した。「ほとんどの取引所が規制強化についてこれるという状況にはならないのではないか」 と勝屋氏は言う。


ハッキング事件は、世間の暗号通貨を見る目にも、悪影響を及ぼした。

勝屋:「ほとんどのメディア、特にテレビ局は、ハッキング事件後に暗号通貨のCMを流すことに消極的となった。ハッキング事件以来、日本のトレーダーの取引量は激減した。」

ビットコインの価格は現在、主に欧米の機関投資家によって決定されていると指摘する。


しかし、日本の暗号通貨市場が、ようやく息を吹き返しつつある。

勝屋:「今年になって個人トレーダーが戻って来た。取引量は1年前と同じ水準に戻った。7月の取引量は、昨年7月の水準と同じだ。」


勝屋氏は、コインチェックはおそらく日本で2番目に取引量の多い取引所だが、一般の人々の信頼を得るためには、まだすることがあるという。「コインチェックに対して反感を持つ人は依然としている。登録業者となる前は、あまり目立たないようにしていたが、市場のムードが変わった今年の4月以降は徐々に広告を増やしている。」


勝屋氏はハッキング事件後、外国人による口座開設を停止した。そのため、現在の顧客のほとんどは日本人だ。勝屋氏によれば、アプリをダウンロードした人は250万人で、登録ユーザーは190万人だという。入金を行った口座数は90万で、現在のアクティブユーザー数はさらにその半分となる。「主な顧客は20代と30代の男性だ。彼らの性格は為替トレーダーによく似ていて、ボラティリティを好む。」


世界各国の政府は、技術革新を阻害することなく、暗号通貨を規制する道を模索中だ。暗号通貨業界もまた、すさまじいスピードで変化しており、日本にとっても重要な課題といえる。


勝屋:「日本では、多くのことが官僚によって決められている。官僚の方は入省して定年まで勤め上げ、ビジネス経験は持たないので、非常に優秀な方ばかりだが、技術変化の速い暗号通貨の世界では、タイムリーに対応するのは非常に厳しい。」


そうではあるが、勝屋氏は、規制は適切に整えられてきているという。消費者保護なくして、業界の成長はないからだ。コインチェックからの不満はない。


勝屋:「甚大なハッキングを受けた私たちは、規制が厳しすぎるという立場ではないと思う。」



(英語版:https://www.longhash.com/news/lessons-from-the-largest-crypto-hack-in-history-exclusive-interview-with-coincheck-president-toshihiko-katsuya



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